元K-1プロデューサー・中村拓己氏が語る"一般的なイメージとは違う"武尊の打撃とは?
元K-1プロデューサー・中村拓己氏が語る"一般的なイメージとは違う"武尊の打撃とは?
餓狼伝: The Way of the Lone Wolf コラボインタビュー
Netflixのオリジナルアニメ「餓狼伝: The Way of the Lone Wolf」が絶賛公開中だ。
海外の格闘家や柔術家もSNSで取り上げ始め、世界の格闘ファンの中に浸透し始めている同作品は、武尊や鶴屋怜、ホベルト・サトシ・ソウザといった超一流ファイターの動きを撮影し、アニメーションに反映したことでも話題になっている。
Jiu Jitsu NERDでは、5月より「餓狼伝」スペシャルコラボインタビューを行っており、好評を博しているが、最終回となる今回は、武尊とともにK-1の一時代を築いた元K-1プロデューサー・中村拓己氏にご登場いただいた。
武尊の異名「ナチュラル・ボーン・クラッシャー」の名付け親でもある中村氏は、格闘技ライターとして立ち技だけでなく、MMAや寝技、武道にも精通している。そんな中村氏に「餓狼伝」に用いられている武尊の動きや、打撃の特徴を語っていただいた。
――本日は、格闘技・スポーツライターの中村拓己さんにお話を伺います。早いもので武尊選手と那須川天心選手が戦った「THE MATCH 2022」から2年、そして中村さんのK-1プロデューサー退任から1年が経ちます。現在は、どのような活動をされているのでしょうか?
中村:元々、K-1の仕事をする前から格闘技記者、ライターとして活動していたので、今はその仕事に戻った形で、いろんな格闘技の情報サイトだったり、専門誌だったりで記事を書きつつ、あとは解説などもしています。
――中村さんは元K-1プロデューサーではありますが、実際のところは、立ち技もMMAも寝技にも精通されています。ライター業に戻っているということですが、格闘技における現在の興味というのはどの辺にあるのでしょうか?
中村:立ち技はもちろんMMA・総合にも興味があります。僕は、K-1プロデューサー時代は、ほかの格闘技から離れていたので、主だった試合はチェックしてましたけど、大会をまるっと見ることがなくなったんです。でも、今の仕事に戻ってからは、またプレリミナリーファイトから全試合を見ることができるようになりました。
――MMAにも興味を持っているんですね。
中村:MMAは打撃も組み技もレスリングも全部あって、立ち技とは違う魅力や過酷さがあると思うので、そういった部分では、立ち技もMMAも見ることが好きです。
――先ほど、K-1プロデューサー退任から1年と申しましたが、イメージとしては、「THE MATCH 2022」が終わった後、すぐに退任されたような感覚があったんですよね。
中村:そのぐらいのインパクトがあったってことですよね。
――改めて「THE MATCH 2022」というのは、中村さんにとってどういう大会でしたか?
中村:なんだろうな、本当に歴史に残るイベントだし、後にも先にもこういうシチュエーションでできる大会はないだろうと思いますよね。二度とないぐらいのイベントに携わることができたのは、すごく貴重な経験をさせてもらったなと思います。
――あれで燃え尽きたみたいなところはあったのですか?
中村:意外にそうでもなかったですけどね、興行をやってると。あの時でいったら、6月19日に大会があって、すぐ6月25日にも大会があったんです。
――はいはいはい。
中村:8月にもありましたし、9月もあったので「THE MATCH」が終わった後、3か月ぐらいで3大会やってるんです。「THE MATCH」もありましたけど、余韻にずっと浸るってことはなく、次に来る大会のことに切り替えて考えていましたね。
――周りが思うほど、そこがゴールで燃え尽きるという感じではなかったのですね。
中村:あそこが一つの変わる節目であったことは間違いないと思うんですけど、あそこで出た結果とか、いろんなものを、次、自分たちの大会で回していくかっていうことの方が大事かなとは思ってましたね。
――「THE MATCH」から約1年後、中村さんは昨年7月でK-1プロデューサーを退任されました。
中村:「THE MATCH」が終わった後に、これからK-1をどうしていこうかという話し合いを続けていて、本格的な海外進出であったり、方向転換して新しいことにチャレンジしていくということになり、それに相応しい方たちにお任せした方がいいと思い、自分は卒業させていただくことになりました。だからあの大会をきっかけにK-1も新しい体制に進んで、僕もプロデューサーの仕事に区切りをつけることになったので、そういう意味では転機だったと思います。
――では、K-1時代の話はこのくらいにして、今度は武尊選手に話を移していきますが、まず中村さんが知っている武尊選手というのはどういう人ですか?
中村:人に愛される選手だと思います。あれは持って生まれたもんじゃないですかね。武尊選手が育った環境もあると思うんですけど、本当に周りの人たちが放っておかない。自然と応援したくなるっていうか。それって彼のファイトスタイルとかキャリアもあると思うんですけど、元々持って生まれたものっていうか。
――そこが「カリスマ性」ということなのでしょうか?
中村:それでいうと、いわゆる「カリスマ性」とはちょっと違うのかなと。例えば魔裟斗選手とかKID選手とかのカリスマ性とはちょっと違うと思っていて。どちらかというと所(英男)選手に近い感じですかね。
――なるほど、わかりやすいですね。今も交流はあるのですか?
中村:もちろんです。選手・ライターとして取材もしています。
――「THE MATCH」後でいえば、スーパーレック・キアトモー9戦がありました。また9月に試合があるそうですが、武尊選手にとってはどのような試合になりそうですか?
中村:「THE MATCH」も含めて、武尊選手のキャリア、実績になってくるとマッチメイクを決めるのも簡単ではないです。次の試合にどういう意味があるのかを話しながら決めている状況でした。
また武尊選手は毎試合これが最後になってもいいという覚悟で、本当に命がけで練習してリングに上がっています。誰が相手になっても、武尊選手はそれだけの覚悟を持って戦うと思います。
――そして、この武尊選手がアニメーションで協力しているのが、「餓狼伝」になります。作品についてはご存知でしたか?
中村:名前は知ってました。あの辺りの時代に、格闘技漫画がいくつかありましたが、その中の1つという感じでは知ってて。今回お話いただいた時に観ました。
――今回、作品の中で印象に残った場面とかキャラクターはいましたか?
中村:僕はあれですね、おじいさん。乱坊です。僕は、やっぱりロマンだと思うんですよね。絶対どの漫画にも、いざとなったら強いおじいちゃんって出てくるじゃないですか。その達人的なキャラが好きなんです。
――「ワシはただの古武術研究家じゃよ」と謙遜するところとかも、明らかに達人の域に入っていますよね(笑)
中村:達人の描写が好きですね。僕が思うのは、格闘技では、試合、人前に出る舞台に上がるということが大変なわけで、技術は歳を重ねれば絶対に伸びるはずじゃないですか。練習を続けて。最低限のフィジカルとコンディションを整えていれば体は動くから、達人っていると思うんですよ。
何月何日に体重を何キロに合わせるために減量する。プロだったらプロモーションして…とか、そういうことが年齢的にできなくなるだけで、スキルと戦い方は必ず伸びていく。それが僕の考えです。たまにジムにいるじゃないですか。試合には一切出ないけどむちゃくちゃ強いおじさん会員とか。そこそこのプロの選手をスパーリングでやっつけちゃって、「何者だ、コイツは」みたいな(笑)。そういう感じです。
――今話していただいたような、ロマン系の話って、なんか昔からみんな好きですよね。居酒屋で話すような、ストリートだと最強は●●●だよね、みたいな。
中村:今はMMAがあるので、実戦でやったらどうこうは難しいですけど、さっき言ったみたいに、スパーリングやったらめちゃくちゃ強い人の噂とか聞くじゃないですか。取材していると「あの人、今でもめっちゃ強いんですけど」とか、そういうの聞くのは好きですね。
――今回、武尊選手の動きがアニメーションの中でふんだんに使われているんですけど、武尊選手の打撃っていうのはどういう特徴がありますか?
中村:一般的なイメージだと、なんか荒々しくKOしにいくとか、ガツガツいくとか。倒しにいくスタイルだから、彼のスキルとかよりも、そっちに目がいきがちだと思うんですけど、僕はかなり技術レベルの高い選手だなと思ってました。あとは繊細ですね。実はそんなに一か八かの博打をしない。これは試合を観ていて思いました。
――そうなんですね。倒すか倒されるか、みたいなマインドで戦っているような印象は確かにありましたが。
中村:特にキャリアを重ねていくうちに備わった気がします。すごく激しく打ち合ってKO勝ちしている印象があるんですけど、そこに行くまでの試合の組み立てが抜群に上手い印象でした。打ち合う時も"絶対に自分が打ち勝つ"という時にしか、打ち合わないイメージですね。
――クレバーですね。
中村:そう、クレバーなんです。最近の試合は、より(武尊の特長を)見ることができていたので、そこは一般的なイメージとは違うかなと思います。
――この辺の動きは、アニメーションに現れていると思いますか?
中村:まさに動きが綺麗なところは出ていると思います。細かい技をいっぱい出すとか。対人の動きが、そのままアニメになっているところとかはまさにそんな感じでした。
イメージはなんかこういう、バーンバーンと派手なイメージだと思うんですけど、コツコツ細かく、ジャブ突くとかインロー蹴るとか。ああいうところが武尊選手ならでは。もう一つの武尊選手の動きかなと思います、はい。
――ありがとうございました。では、最後に中村さんの今後の活動とか告知があれば教えてください。
中村:今までやってなかったような形で格闘技に携わっていきたいと思います。以前と変わったことといったら、自分が出て喋る場面とか、取材を受けることが増えたんで、そういったものを通して、自分のやってきたこととか、格闘技感とか、お伝えするような形で、また格闘技を盛り上げていけたらなと思います。