"戦うIT社長"に訊く、キッズの盛り上がりと育成論 其の一
"戦うIT社長"に訊く、キッズの盛り上がりと育成論 其の一
Kids Training Theory
国内のキッズ柔術シーンが盛況を博している。
一時はコロナ禍により大会が開催されない時期もあったが、昨今のキッズ大会参加者は如実に増えており、試合では熱を帯びる保護者達の声援をバックに多くのキッズが実力を競っている。
これに伴い、キッズの競技レベルが上がっていることは明白で、どの年代であっても簡単に勝てるトーナメント(カテゴリー)はなくなったと言ってよいのではないだろうか。
もちろん、試合は強制されるものではなく、純粋に柔術を楽しむキッズも大勢いるだろう。
しかし、柔術に本気で打ち込み、長く競技を継続しているキッズの大半は、競技志向の子どもたちであり、キッズに力を入れる道場では、キッズの"コンペクラス"や(柔術にプラスとなる)レスリングクラスを増設することも珍しくなくなった現状がある。
Jiu Jitsu NERDでは、有識者とともに「キッズ柔術の在り方」を考えるべく、その第一弾として、ブラジリアン柔術黒帯、"闘うIT社長"こと伊藤健一さんにインタビューを行った。
伊藤さんは、現在の国内キッズ柔術界でトップアカデミーの一つと言われる「CARPE DIEM 三田」の初代オーナーであり、キッズ部門のベースを作ったと言われている人物だ。
――現在、柔術シーンではキッズ部門が盛り上がってます。その中で、伊藤さんが日本でキッズのトップアカデミーの一つと言われる、CARPE DIEM三田の基盤を作ったと言われてますが、当時はどのような状況だったのでしょうか?
伊藤:はい。三田で7年くらいキッズの指導をしてましたが、私がキッズクラスに携わる前は、キッズの会員は2年間やって5人くらいでした(笑)
――今の三田の盛況ぶりを見ると驚きですね。
伊藤:もちろん当時は、そこまでキッズ柔術も盛り上がってなかったですし、インストラクターをしていた者も、柔術は黒帯でしたが、子供を教えるってことがわかってなかったですし、なによりキッズクラスは、ママとのコミュニケーションも大事ですので、それも全くできてなかったですよね(笑)。私は経営に携わっていたので、正直キッズクラスは廃止にしようかなと思ってました。
――そうですね。会員が5人ではやっていけないですよね。
伊藤:ただ、港区という土地柄もあり、色んなキッズのスクールが沢山あります。子供にお金をかける親はとんでもなくいるので、ちゃんとやれば必ず成功すると確信してました。
柔術って柔道とかと違って投げも少ないし、意外と怪我もしにくい格闘技じゃないですか。基本は子供に向いてると思うんです。
――伊藤さんがキッズクラスに携わるようになってから特に重視していたことはなんでしょうか?
伊藤:その当時、僕の友人が、他の道場に自分の子供を通わせていたんですね。でも、その道場では、柔術の練習より、子供にドッジボールをさせたり、鬼ごっこや相撲ばかりをさせていたらしく、それでクラスが終わる日もあったと。その友人はいつもその光景を見て苦虫を噛んでたらしいんです。
それは当然ですよね。もし子供を塾に行かせて勉強を習わせているのに、勉強を教えないで遊ばせているだけだったら詐欺だと思うんですよ。なので僕は単純に大人クラスと全く同じプログラムにしました。
――鬼ごっこで楽しくウォーミングアップをしたり、バランスや腰を落とす感覚を掴むために相撲を取り入れるのも良いとは思いますが、それだけで終わったらお遊び教室ですね。
伊藤:港区の子供って色んな習い事を並行してやるんですよ。例えば、塾に行って体操教室に行って、それから柔術に来るという子が沢山いるんです。なので正直ウオーミングアップもほとんどいらない。しっかり受け身だけはやらせて、すぐドリルとかをやらせてました。子供の筋量ならドリルで十分身体は温まりますし、柔術の動きも覚えて一石二鳥です。
――なるほど。
伊藤:僕は「キン肉マン」の作者ゆでたまご嶋田先生とも仲が良く、嶋田先生が良く話すのが「子供をバカにしたらいけない」ってことなんです。漫画は基本、子供が見るモノですが、逆に子供に向けて書くと子供が見なくなるらしいのです。なので、子供も基本は大人と同じ。
子供は、集中力が無いからクラスに遊びを入れないともたないと思ってる人は多いと思いますが、全然そんなことないですし、大人だって集中力が無い人もいるので同じですよ。
――教えるテクニックとかはどうのように考えてましたか?
伊藤:基本は大人と全く一緒です。ベリンボロとか流行りのテクニックも教えてました。子供は吸収が早いので、すぐ覚えてましたね。でも膝を捻るとか、首を痛めそうなテクニックは、キッズのルールでも反則になっているので、当然ルールに沿ったテクニックの範疇ですね。
例えば、キッズのルールだと、三角絞めって後頭部を抑えるのが反則なので、ほとんど極まらないし、膝も捻るので教えていなかったんです。なのに、親御さんがノゲイラファンで家で三角絞めを教えたら、子供が膝が痛がりはじめたそうで、すぐ止めさせたこともありました(笑)
――キッズ特有のルールはありますが、本当に基本は大人クラスと一緒のことをやるということですね。
伊藤:今はわかりませんが、当時はそういったキッズクラスをしている道場は少なかったと思います。「子供が柔術を習いにきてるんだから柔術を教える」、ただそれだけなんですが、そんな当たり前ができていなかったんだと思います。僕が携わって2年くらいで、JBJJF全日本キッズの団体優勝ができました。僕自身も自信になりましたし、勲章でもあります。
――ありがとうございます。何回かに分けて掲載させて頂き、さらに踏み込んで色々お聞かせください。
伊藤:わかりました(笑)。
[この項続く]